「幸村の手術、間に合いそうにもないな。」
「大丈夫っスよ。俺が14分でこの試合を終わらせますから。
それで間に合いますよね?先輩。」
--- はじめ ---
関東大会、決勝戦。
2勝1敗で迎えたシングルス2試合開始の少し前。
赤也は自信満々な顔でそう言って、マネージャーであるの言葉を待った。
いつもなら、間髪入れず笑顔と共に返ってくるはずの言葉が無い。
不思議に思って周囲を見渡すと、先ほどまでいたはずのの姿が見当たらなかった。
「ああ、なら少し席を外していいかと問われたので、許可をした。
お前の試合まで、まだ少し時間があるからな。」
赤也に対して真田がそう告げると、それを補足するように柳が言う。
「彼女に用事か?急ぎならば多分あちらのギャラリーにいると思うぞ。」
「ギャラリー・・・っスか?」
不思議そうな顔をした赤也に、柳は表情を変えること無く爆弾を投げつける。
「ああ。この決勝戦はあらゆる学校が注目しているからな。
もちろん、の彼氏もデータ収集のために来ている。」
「・・・・・っ!」
「・・・・・・・・・・・」
赤也と真田。無言のまま2人の視線が柳へと注がれる。
しかし、その2人の心境はかけ離れていた。
驚いて声にならない赤也。
そして、なぜこの時期に波を立てるのだ。と、呆れている真田。
赤也がに好意を持っているらしいことは、部員全員が知っていた。
赤也は基本的に素直で単純だったので分かりやすかった。
「・・・彼氏って、先輩にそんな人、いたんスか?」
「俺のデータが信じられないのか?」
「うっ・・・いや、そんな事はないっスけど・・・」
柳のデータが信頼に値するものだということは良く知っている。しかし、信じたくない赤也は言い淀む。
そんな赤也を見て、柳は薄く笑って言った。
「だったら、自分の目で確かめて来たらどうだ?」
「蓮二、何を言っている。赤也は次の試合なんだぞ。」
「分かっているさ。だからこそ、スッキリした気分で戦えるように。と思ったんだ。
それに、あっちにはマネージャーもいる。赤也が試合に遅れるようなことは万が一にもあるまい。」
何を考えているのか読めない無表情な仲間を見て、真田は溜息をつく。
確かに、このままでは赤也は試合に集中できないだろう。
「仕方ない。さっさと行ってこい!」
自分の言葉と同時に走り去る後輩の後ろ姿を見送って、真田は柳へと視線を移す。
「何を企んでいる?」
「別に。ただ赤也に打倒、不二周助の気持ちをより強く持たせようと思っただけさ。」
「不二?」
「ああ。の彼氏は都大会で派手に不二に負けているからな。」
柳の言葉に、真田はこれからの出来事を想像して顔をしかめた。
「持ち場を離れても大丈夫なんですか?」
「はい。ちゃんと許可は取ってきましたから。」
どちらかというと青学サイドのギャラリーに観月の姿を見つけてが駆け寄ると、開口1番心配そうに聞かれてしまった。
ちゃんとの立場というものを理解し、そして気を使ってくれる観月の優しさが嬉しくて、は笑顔になる。
観月はいつだって、のことを考えてくれた。
2人が出会ったのはテニスとは全く関係の無い静かなカフェ。
その店で何度か顔を会わせるうちに仲良くなって、お互いに好意を持ちはじめた。
しかし、が常勝立海大のテニス部マネージャーであると気づいた時に、観月は言ったのだ。
「さん、もう、僕たちは会わない方がいいです。」
「え?」
「僕が迂闊でした。まさか貴方が立海大のテニス部マネだったなんて・・・」
「観月・・・さん?」
「僕は聖ルドルフのテニス部員です。そしてデータ収集では少しは名が知れている。
そんな僕と一緒にいたら、貴方がメンバーの情報を流していると疑われてしまいます。」
「そんな!だって、観月さんは私にテニスの話なんて全然しないじゃないですか!」
「ええ、そうですね。僕は貴方を貶めるようなことは絶対にしない。」
「だったら・・・」
「けれど、穿ったモノの考え方をする連中は多いものなのですよ。
さん。僕は貴方を苦しめたくはない。
だから、僕たちが知りあいだということが、周囲に漏れる前に、もう会うのはやめましょう。」
感情を押し殺した表情で静かに告げられた言葉。その言葉がほんの少しだが震えていたことをは良く覚えている。
その声に観月の気持ちを感じ取って、自分の気持ちを素直に告げる勇気を持てたのだ。
「嫌です。私を苦しめたくないというのなら、もう会わないなんて言わないで下さい。
私は、観月さんのことが好きだから、もう会えないなんて、そんなの、嫌です。」
の告白に、観月は大きく目を見開いて、そして笑った。
「貴方には本当に驚かされてばかりですね。まさか、こんなに嬉しい言葉がいただけるなんて思ってもいなかった。」
「観月さん・・・」
「本当は、僕も貴方とずっと一緒にいたいと思っていました。
さん、好きです。
変に誤解されて、嫌な思いをするかも知れません。
僕と貴方は学校も違う。いつでも守ってあげられるわけではない。
それでも、僕でいいんですか?」
「観月さんがいいです。」
の言葉にとても綺麗な笑みを浮かべて、観月は彼女の手を取ると、その手に口付けをした。
「では、これから宜しくお願いしますね。。」
付き合う前も付き合ってからも、観月の優しさは変わる事なく、はいつも幸せだった。
そしてそれは、観月にもいえることだった。
はたから見ていても本当に仲むつまじく、幸せそうなカップルだった。
「先輩!!」
観月との楽しい時間を過ごしていたら、イライラとした声音で自分の名前を叫ぶように呼ばれ、は驚いたように周囲を見回した。
そして、そこに自分へ。と言うより、その隣の観月へと鋭い視線を送っている後輩の姿を見つける。
「赤也?どうしたの?」
赤也を見つめ首を傾げるの隣で、観月は苦笑する。
観月は伊達にデータを取ってきたわけではない。人を見る目には自信があった。
そして、赤也はとてもわかりやすい。
自分からを取り戻すために息せき切って来たであろう赤也の気持ちなど一目で分かってしまう。
赤也にしてみれば、笑みを浮かべている観月の態度が気に喰わない。
ただでさえ、気に入らない相手だというのにバカにされているような錯覚を覚える。
観月を見る目に、更に悪意を込めると、観月はこれみよがしに溜息をついて言った。
「お迎えが来たようですね。」
そんな観月の言葉に、は悲しそうな顔をする。
にそんな顔をさせることの出来る観月が、赤也はますます憎らしくなる。
しかし、は赤也の気持ちなど全く気付かない。
「赤也。迎えに来てくれたの?」
真田から指定された時間はまだ先のはずだ。
そう思いながら、は赤也を見る。
「別に、呼んで来いって言われたわけじゃないっスけど。」
不満そうに赤也が言うのを、観月は相変わらずの笑みを浮かべて聞いている。
彼に悪気があるのか無いのか分からないが、その笑みが赤也の神経に障る。
「何がおかしいんスか?」
「え?ああ、失礼。と切原くんの会話が微笑ましかったから、つい。」
観月が言うとが首を傾げる。
そんな彼女に観月は言った。
「あなた達は、仲の良い姉弟のように見えますよ。」
「なっ!!」
その観月の言葉に大きく反応したのは、もちろん赤也だ。
「姉弟って何だよ!それ!」
「赤也。私がお姉さんじゃ嫌?」
「嫌っスよ!!」
間髪いれず叫ばれて、は表情を曇らせる。
「そうだよね。私みたいな姉じゃ頼りないものね。良く妹や弟に言われるんだ。もっとシッカリしなよ。って。」
えへへ。と力無く笑うに、赤也が何か言うより早く観月が微笑みかける。
「いいんですよ。はそのままで。今のままの貴方で、十分に可愛らしいんですから。
頑張りやさんの貴方が、それ以上頑張ると僕が困ってしまいます。」
「観月さんったら・・・」
赤也やその他のギャラリーがいることを無視して、2人の世界に突入しそうな気配を察知して、赤也が慌てて割って入る。
「別に先輩が頼りないなんて思って無いっスよ。そりゃ、たまには思うけど、そんなとこも可愛いと思うし・・・」
そこまで言って、赤也は口を閉ざすと真っ赤になる。
しかしは赤也が赤くなった理由など気付かずに首を傾げててる。
そん彼女を見て、赤也は溜息をついた。
この人にはハッキリ言わないと駄目だ。
「先輩。単刀直入に聞きますけど、隣にいる、ルドルフの観月さんと先輩の何なんです?」
「・・・え?」
突然の問いには頬を赤く染める。そして観月へと視線を向け微笑むとハッキリと言った。
「観月さんは私の大切な人。彼氏だよ。」
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遊月華林さまのBDプレとして、何か書くよ〜。と言ったら、
お相手は観月さんで、ヒロインは他校。
観月との関係を知られて ひともんちゃく というリクをもらいました。
で、相手を考えたんだけど。
華林が最初に相手を観月さんにするか赤也にするかで悩んでたので
思いきって赤也で書いてみる事にしたんですけども・・・・・・
ああ。それが間違いの元だった( ▽|||)サー
なんか、大変な偽モノになってますが。
そして長い話になってますけど!!
華林、ゴメンよ。
これでも、愛情こもってますので!!