--ハヤトチリ-----
社会人歴3年目、不二裕太は可もなく不可もなく何の変哲もない日常を送っていた。
3年目にもなると当然仕事にも慣れ、だいぶ手の抜き方も覚えた。
それでも裕太には、どうしても慣れることの出来ないことがあった。
「不二、そろそろ昼の準備な。一緒に行くだろ?!」
「ぁ?俺今日パス!たまには昼飯くらいのんびり食いたいし。」
同僚と昼食を取るのは嫌いではないが、
裕太はランチタイムと言うものがどうも苦手だった。
何故ならば・・・。
「何だよ、今日は苦労して約束取り付けた受付嬢だぜ。
お前狙いで来る娘もいるから、絶対参加するべきだ!!」
裕太は「それが嫌なんだよ」と、あからさまに眉間にシワを寄せた。
裕太の勤め先では、未だに社内結婚が主流のようで、年頃の女子社員は
将来有望な男性職員を日々吟味している節がある。
「とにかく、俺はパスな。」
ふてくされた様子を思い切り露にされて、声をかけて来た同僚は
渋々退かざるをえなかった。
「毎日毎日、何が楽しいんだ?」
裕太は一人社員食堂でお気に入りの甘口カレーを食べ終えると、中庭へ向かった。
外はいい天気。
中庭になど滅多に出ることはないし、今も何か目的があるわけではないけれど、
窓から見える青空に誘われて何となく日の光を浴びたかった。
庭へでると、背もたれのあるベンチが目に止まった。
そこへ腰を下ろして空を仰ぐと、雲一つない澄んだ水色が眩しい。
穏やかにそよぐ風が心地よく、昼休み、こんなにのんびりしたのは久しぶりだ。
(今ごろ、あの人たちはどうしてるかな・・・。)
こんな何も考える必要もない時間には、時々学生時代を思い出すことがある。
勝つことに執着していたテニス部時代。
癖のある先輩ばかりだったが、彼らをとても慕っていた。
毎日が必死だったけれど、今思うと楽しかった。
特に兼マネージャーの観月には、男兄弟がいないせいか
必要以上に可愛がって(?)もらったと思う。
「観月さんは意外と寂しがりやだから、
何かしら理由つけては俺のこと偵察に連れてったよな・・・。」
裕太が「まさかとは思うけど、たまにうちの社内まで偵察に来てたりして。」
と苦笑いした時、目の前にたった今思い描いた人物の後姿が現れた。
「観月さん!!!」
考えるよりも先に体が動く。
気が付けば名前を呼んでも振り返りもしない相手の肩を掴んでいた。
「きゃぁっ。」
観月は確かに華奢で一見女の子のようだったけれど、付くべき筋肉はしっかり付いていた。
裕太は、掴んだ指先から伝わる感触を疑問に思うより先に女性の声を耳にした。
「あ、え・・・?うわぁ、ゴメン。」
よく見ると「観月」だと思い込んで捕まえた相手は、遠目だったとは言え
何処をどう間違えたのか、色が白いと言う以外似ても似つかない他課の女子社員だった。
「・・・・・・。」
相手の少し困った顔と『』と彫られたネームプレートが目に入る。
「あの・・・私に御用でした?」
裕太が肩から手を放さないので、は躊躇いがちに声を出す。
真っ黒な大きな瞳と、
兄である周助が一目で気に入りそうなしなやかな白い手が印象的だ。
その手にはケーキ用の洋菓子店の箱。
しかし箱には少し潰れた痕がある。
突然知らない男性職員に掴まれて、驚いて力が入ってしまったのだろう。
「その・・・人違い、でした。」
慌てて手を引っ込めて、決まり悪そうに彼女を見た裕太は潰れた箱の存在に気が付いた。
「それ、中身も潰れてるんじゃないか?悪かったな。俺、新しいの買ってくるよ。」
「多分大丈夫。それに、何が入っているか知ってるんですか?」
は「チョット待ってて」と走り出そうとする裕太を引き止めると、
楽しそうにくすくす笑った。
そう言えば、中身も知らずにいったい何を買いに行こうと言うのだろう。
「あ、本当に・・・、ゴメン。」
我に返ってシュンとなる裕太に、はにっこり微笑んで箱を開けて見せた。
「悪いと思うなら、一緒に食べてください。」
箱の中身は最近女子社員に人気のシュークリーム。
箱のつぶれ具合のわりに、中身の方は無事だった。
上司が外回りのお土産にくれた物らしいが、
一人では食べきれないのでどうしようかと悩んでいたそうだ。
「もし嫌いでなければ」と言われたが、甘党の裕太には断る理由など何もない。
「困ってんなら、仕方ないよな。」
二人はさっきまで裕太が座っていたベンチに戻って肩を並べた。
「甘いものお好きなんですね。」
軽く二つ目のシュークリームを美味しそうに頬張る姿を見て、は驚いていた。
「男で甘いもの好きなのって、やっぱ変かな?」
「そんなことないですけど、あんまり美味しそうに食べるから、
誘って良かったなと思って。」
「こっちこそ、かえって悪かったな。そうだ、お礼に今度飯でも・・・。」
裕太は自分が言い出したことにハッとした。
(何言ってんだ俺?これじゃナンパしてるみたいじゃないか)
そして自分から女の子を誘う言葉が自然に出てきたことに本当に驚いて自問自答を始める。
「じゃぁ、明日のランチ、ご一緒しません?」
はで、男性社員からの誘いはほとんど理由をつけては断っていた。
けれど裕太の純粋な空気がそうさせたのか、彼女もまた自分が言ったことに戸惑った。
「「・・・・・・。」」
しばらくの沈黙。
そしてお互いの顔を見合わせると自然と笑みがこぼれた。
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1000hitでLAST ANSWER の月夜風さまからリクいただきました。
と言っても相手の選択肢も少なく(最初から不二くんはパスさせてもらった)
シチュなど勝手に決めさせてもらって本当にごめんね。
リクと言うより押し付けな夢ですが、これからも宜しくねvv
1000hitありがとう!!!!!