当然と言えば当然だった・・・。
「不二、お前最近付き合い悪いと思ったら、別ルートで彼女いたのな?!」
次の日、と昼休み待ち合わせしている所を目撃され、裕太の周りではその話で持ちきりだった。
「ばっ・・・ちげ〜よ、そんなんじゃ・・・。」
昨日出会って今日の出来事。
彼女のはずはないけれど、裕太はそれ以上否定しなかった。
心のどこかで「そうだったらいいのに」と思う自分に薄々気付いていたから。
けれども、裕太自身を手に入れようとか積極的に外に誘い出せるはずもなく、
偶然中庭で昼休みを共有したり、社内ですれ違う時にが微笑みかけてくれるだけで嬉しかった。
そんな日々が何ヶ月続いただろう。
裕太はいつの間にか、晴れの日の昼休みが楽しみになっていた。
ところが、ある日を境に社内での姿を見つけられないことが何日も続いた。
と同時に
『秘書課のと言う女子社員が、上司の取引先の相手に気に入られて結婚退職するらしい』
と言う噂が舞い込んだ。
裕太はその時初めて、に対する気持ちの重さを認識してしまったのだ。
しかし、すべては遅かった。
彼女の退職はきっと覆らない。
そして自分の恋人でもない女性が誰を選んだとしても、止める術はない。
「とんだお笑い種だぜ。」
裕太は自分に腹を立てていた。
『もっと早くこの気持ちに気付いていたら・・・?』
いや、気付いていたとして何もしなければ現状は変わっていないだろう。
今彼女に会ってどうしようと言うのか、裕太は仕事を投げ出してエレベーターに乗り込んだ。
ここ数日社内で見かけなかったのだから、秘書課へ向かっても会える保障はない。
それでも向かわずにいられないのは確かめたい事があるから。
噂はただの噂かもしれない。
そうであってほしいと祈った。
いつもより長いと感じられたエレベーターの扉が開くと裕太はまっすぐ秘書課へ向かう。
角を曲がって顔を上げた。
すると前方には自分が探していた人が女性職員と親しげに話している姿。
しかし、裕太の目にはしか映っていなかった。
彼女めがけて勢い良く前進する。
その気配を感じ、は裕太を見つけるといつものように微笑んだけれど、
相手の険しい表情に一瞬戸惑う。
「俺、さんのこと好きだった!」
が「どうしたの?」と聞くよりも早く、裕太は強い口調でそう告げた。
けれど裕太が言いたかったのは、退職の事実はあるのか?と言う事で、
まさかこんな形で気持ちを打ち明けるとは本人も思っていなかった。
そんな動揺を隠しながらチラリとの表情を読み取ろうとしたが、
その顔は困ったようでも嬉しそうと言う感じでもない。
どちらかと言えば少し怒っているように見えた。
「どうしてそんなこと言うの?」
苦しそうに控え目な声が届く。
結婚が決まったのに、他の男に『好きだ』なんて言われても困るよな。
裕太はそう思った。
「ごめん、でもこれだけは最後に言っておきたかったんだ。」
裕太は自分の浅はかさを恥じるように肩を落とす。
「ずるい、そうやって自分だけスッキリした気持ちになって。
どうして自分の中だけで完結させてしまうの?」
「さんが結婚退職するって聞いて、俺、居ても立ってもいられなくて・・・。」
裕太の口から出てきた『結婚退職』と言う言葉に、はキョトンとする。
「もしかして・・・。」
はハッとして隣の女性の方を見た。
裕太が来てからすっかり二人の世界だったが、その間の隣で気配を殺して待っていた人物がいる。
彼女はくっくと可笑しそうに笑いながらこう言った。
「そうね、秘書課のは確かに結婚退職するわ。」
裕太は噂が真実だったことへのショックのせいで、
もう一人の存在を疑問に思うこともなかった。
「本当だったんだな。」
「あ、待って不二さん。」
それ以上何も言えずにエレベーターへ引き返そうと後ろを向いたとき、から声がかかった。
「秘書課のって言うのは、うちの姉のこと。
だから結婚退職するのはこの人なんだけど・・・。」
力なく立ち止まった裕太に向かって、は隣の女性を指差して見せた。
「・・・・・え?」
「私は庶務課のでした。」
今度は自分を指してへへっと笑って見せた。
そして少し恥ずかしそうに聞く。
「それでも私のこと好きだって言ってくれた気持ちは過去形なの?」
しかし裕太にはそのセリフの意味を瞬時に理解することは出来なかった。
はソレを見て苦笑いしながら、諦めてこう言った。
『私は不二さんのこと好きなんだけどな』
裕太はこれで漸く全てが理解出来たが、全身が熱くなって行くのを感じる。
そして真っ赤になりながら不器用にを抱き寄せた。
「俺は、さんのことが好きです。」
は頷いて裕太の胸に顔を埋めた。
fin
あとがき
私信で失礼致します。
風ちゃんへ
今回は、「さくさく書けそう♪」とか言っておいて、
エラクお待たせしました〜〜〜っ
しかもに、煮え切らないラストでゴメン・・・。
他に人がいれば、いくらなんでも気付くだろぅって突っ込みはノーサンキューです(笑)
シチュエーションとかも受け付けずに進めてしまって申し訳ない。
これからものんびりマイペースでも頑張るので、宜しくね!
1000HIT、ありがと〜