春一番を全身に浴びながら、
薄桃色の風に包まれた彼には桜がとてもよく似合う。










SAKURA










銀色の髪をなびかせて、彼はそこに立っていた。




入学式も終わり、新入生はそれぞれが家路に向かう時間だった。
少し出遅れた私はその波に一足遅れて校舎を後にする。

不快な音とともに折角咲いた桜の花が舞う。


(風さえなければ、もう少し見ていたいのに・・・。)


明日からは毎日ココに通うのだけれど、
咲き誇る花達をこの目に焼き付けておこうと立ち止まった。

学園内の見事な桜並木がとても気に入って、風に散ってゆくのが何だか切ない。


子供の頃は、落ちてくる花を受け止めようと、無心で両手を広げたっけ。
そんな事を思い出しながら再び歩みを進めると、何かに視界を奪われる。

上ばかり見ながら歩いていたので、ぶつかって初めて人の存在に気付いた。


「ごめんなさい。」


「ごめんね。」


相手も同じように降って来る桜を見ていたようで、声を出したのは同じタイミング。

あどけない笑顔のその少年は、優しい瞳を私に向けた。
銀色の髪が光を受けてとても眩しい。


「キレイだね。」


静かに微笑んで彼は右手を空へかざした。
すると、まるで吸い寄せられたように桜の花が一つ手のひらに。
その光景に釘付けになっている私に向かって、彼は右手を差し出す。


「君にあげる。」


「ありがとう。」


ハラハラ降る花びら

辺りは薄く桃色

急に上がった気温のせいで我先にと花開く桜、桜、サクラ・・・。



まるで私の心のよう。

自分の中で何かが息吹くのを感じた。



























「ねぇ、覚えてる?初めて会った時のこと。」



それから2度目の春が訪れようとしていた。
教室の窓からは、膨らみかけた桜のツボミが目に入る。

名前も知らなかった二人は、二年で同じクラスに。
そして次の年、部活の引退を機に付き合うようになっていた。


「うん、覚えてるよ、だって俺がのこと好きになった日だから。」


「うそっ、私もだよ。」


「でも、俺の方が先にを好きになったよ。」


「どうしてそんなこと分かるの?」


「あの時、俺の存在にも気付かないで桜の花に夢中になってた
 あんまり綺麗だったから、一目惚れしたんだ。
 だから、本当はぶつかる前からずっとのこと見てた。
 まさかぶつかるまで気付かないとは思わなかったんだよね。」


長太郎は少し照れたように、だけどいつものように優しく笑う。


「キレイだね、って言っただろ?」


「もぅ、長太郎ったら。」


「ははっ、は本当に可愛いね。」


その後続けて『大好きだよ』って耳元で小さな声が聞こえた。

恥ずかしいから、私の頬がピンクに染まって行くのは、
咲き時を心待ちにしている桜のせいってことにしといてね。











FIN





あとがき
もう桜って季節でもないんだけどね・・・。
コレ仕上げるのに2ヶ月くらいかかった気がする。
途中で何度も設定が入れ替わったりしたからなぁ。
祝初長太郎ってことで・・・許してください。
だって長太郎って観月に比べると癖がないんだもん(言い訳)
でも、チョタも好きなの!!!
愛だけで乗り切った感でスミマセンでした。