いよいよホワイトデー当日。
放課後の教室には、観月との2人きりだった。

















んふっ、ここからは真面目にいきますよ。

















観月はレギュラージャージを取り出すと、にソレを渡した。



「僕の部屋に着くまで、羽織っててもらえますか。
 制服の上からでかまいませんから。」



ネクタイを外そうと手をかけたを見て、慌てて一言付け足した。



「なんか、観月くんの香りがする。」



は長袖のジャージを被ると、少し恥ずかしそうにはにかむ。

そんな彼女を抱きしめたい衝動に駆られながら、観月はすました顔を作り直した。



「ソレを着ていれば、簡単に通れますから。」



「何か前にもそんなことがあったような口ぶりだね・・・。」



「んふっ、ヤキモチですか?光栄です。
 残念ながら女子テニス部が何度か談話室まで来ていますからね。」



「ふ〜ん。」



「そう言う顔も可愛いですよ。
 でも安心して下さい。僕の部屋に女性が入るのはが初めてですから。」



観月はに一歩近づくと、優しく髪を一撫でする。



「さ、行きましょうか。」



「うん・・・。」



は観月のこう言うときの顔に一番弱かった。
なんだか腑に落ちない気もしたが、彼の袖口をぎゅっと掴んでその後に続いた。
観月は掴まれた袖口をチラッと横目に確認したが、そのまま寮の方向に向かった。
























「寮って案外厳しくないんだね。」



「そうですね、そのジャージを着ていると特に何も言われません。」



「そっか、うちの学校テニス部に力入れてるもんね。」



観月の部屋に着くと、寮に入る事に少し緊張していたはホッ息をついた。



「あまり広い場所ではありませんが、楽にしてください。
 今僕が紅茶を入れてあげますよ。」



観月はこだわりのティーポットにテキパキとお湯を注ぐ。

部屋の空気は紅茶の香りで満たされた。



「すごい、手際がいいね。」



「んふっ、好きなんですよ、紅茶が。さ、どうぞ。」



観月は満足そうにティーカップを差し出すと、続けての前に正方形の包みを置いた。
は不思議そうにソレを眺める。



「僕の好きな紅茶を、も好きになってくれたら嬉しいと思ったので、
 今使っているティーポットと同じ物をプレゼントすることにしました。
 今日はホワイトデーですからね。」



「え?でも私バレンタインに何もあげてないよ。」



「いいんですよ、僕がいらないと言ったんですから。
 それに、ホワイトデーと言うイベントに参加してみたかったんです。」



「でも・・・。」



「そんなに気になるのなら、一つお願いがあります。」



「うん、何?」



から僕にキスをしてください。」



「え・・・。」



「出来ますよね。」



「・・・うん・・・。」



観月は少し躊躇うに両手を差し出す。



「おいで、。」



外では見せない優しい眼差しが彼女を誘う。
は観月の言うとおり彼の胸に身を預けた。

観月は一度彼女をしっかり抱きとめて一呼吸置くと、
事前にポケットに忍ばせてあった物を口に含み、の顔を自分の方へ向けさせた。
は誘導されるがままに観月と唇を重ねる。

2人は何度か触れ合うように口づけを交わした。

そして再び唇が重なった時、観月はの唇を舌で抉じ開けた。



「呑み込まないように気をつけて。」



耳元で囁く声。
言葉の通り何かが口の中に置き去りにされた。


 
「!!!」



が驚いてソレを取り出すと、出てきたのは銀色の華奢なリング。



「ピンキーリングです。
 幸せは左手の薬指から入って、右手の小指から出て行くそうですよ。
 だから右の小指にソレをはめていれば貴女の幸せは逃げません。」



観月は得意げにそう告げると、
の手の中からリングを取り戻して彼女の小指に通した。



「すごい、ぴったり!!」



「当然です、僕を誰だと思っているのですか。
 んふっ、事前の下調べは抜かりありませんよ。」



「ありがとう・・・。」



「薬指の分はまだ早いので少し先になると思いますが、
 必ず僕がを幸せで満たしてみせますから。」



「うん。」



は満面の笑みでうなずくと、観月に寄り添った。
紅茶の香りに包まれながら、甘い時間が流れていった・・・。






























(んふっ、シナリオ通りです。)



隣近所の部屋は外出中。
彼女の心のガードは緩んでいるはず。

となれば・・・。
男心と言うものはこんなものなのです。

観月はもう一度と唇を重ねた。
さっきよりも深くそして長く。



「いいですよね?」



「うん・・・。」



雰囲気に流されて返事をしてしまったの気が変わらないように、
観月はさっさとブラウスのボタンに手をかけた。



「待って。」



「待てません。」



「本当にちょっと待ってってば!!!」



観月は仕方なく手を止めた。



「ゴメンね、でも何か変な音がしない?」



そこで耳を澄ましてみると、入り口の方では人の気配。



「まさか!!!」



ドアまでそっと近づいて一気に扉を開くと、見た顔が並ぶ。



「うわっバレタだ〜ねっ。」



「待ちなさい、逃げても無駄です、赤澤、柳沢、裕太!!!
 盗み聞きとは汚いですよ。」



怒りに満ちた観月の声が響く。



「待てと言われて待つ奴があるか!」



「そうだ〜ね、ただのデータ収集だ〜ね〜。」



名前を呼ばれた3人は悪びれる様子もなく背中を向ける。



(あいつら・・・。)



観月が静けさを取り戻した自室に引き返すと、はくすくす笑っていた。



「寮って楽しそうだね。私そろそろ帰るよ。」



「そ、そうですか・・・、では送ります。」



「ううん、大丈夫。ジャージは明日持ってくるね。」



















観月のドキドキ大作戦



失敗・・・。




















そして数時間後
観月の部屋にて最終ミーティングが・・・。




「分かっているでしょうが、今後しばらく貴方たちに休みはないものと思ってくださいね。」



「分かっただ〜ね〜、でもあんな急に『いいですよね?(観月の真似)』はないだ〜ね。
 下心見え見えだ〜ね〜。」



「しかし、いい勉強になったな。流石観月だ、ハッハッハッ。」
 


「・・・・・・。
 だいたい何で裕太くんまで一緒にいたんですか!!!
 あなたはデートのはずでしょぅ。」



「観月さんが『女の子はクマの人形などを好みます、んふっ』って言うから
 クマさんにしたんですよ。そしたら彼女微妙に機嫌が悪くなって途中で
 帰って行きました。観月さんはどんなものあげたのか気になって柳沢さんに付いて来たんです。
 やっぱり俺にアドバイスしたアイテムは出てこなかったじゃないっスか!!!」



「そうですか、で、裕太くんはどんな物を選んだんです?」



「コレですけど。」



「・・・・・。
 裕太くんは、コレを貰って嬉しいと思いますか?」



「俺はあまり嬉しくはないけど、兄貴がこう言うの好きなんですよね。」



「だからって、誰が木彫りのクマプレゼントしろといいましたか!!!
 どこをどう見たら『クマさん』と呼べるんですか?
 少し常識を学びなさい。」



(観月さんに常識を語られたくはないんだけど・・・。)




















それはホワイトデー当日、イベント終了後の出来事。






Fin




 

あとがき
甘いのか、ギャグなのか・・・。
空回り気味の管理人です。
お付き合いありがとうございました。