携帯が鳴ったのは昨日の夜のこと。

ディスプレイに表示された『観月はじめ』の文字。

高鳴る鼓動を抑えながら受けた電話の向こうからは、
いつものすました声。


「観月です。」


その一言だけで私をこんなにも幸せにしてしまうのは、
世界中で貴方ただ一人だけ。


「もう寮にいるの?」


「えぇ、さっき自室に戻ったところです。」


彼からの電話の時は、絶対に『どうしたの?』からは始めない。

『用がなければいけませんか?』と言われそうだから。


「お帰りなさい。」


「んふっ、ただいま。」


何気ない会話も、私が彼女で、彼が彼氏だから意味のある言葉になる。

メールよりも電話で話す方がいいと言う、観月くんの言葉にも納得できる。


「ところで明日なんですが、何か予定はありますか?」


「ううん、明日はこれと言って何もないけど・・・。」


「それは淋しい方ですね。」


「ケンカ売ってる?!」


「いいえ、実は僕も暇で淋しい人間なんです。」


「なんだ、一緒じゃない。」


「そこで提案なんですが、よかったら外で会いませんか?」


「外で?本当に?!!」


「こんなこと嘘ついてどうするんですか。本当ですよ。
 お暇なようなので、明日の朝10時に駅でいいですね。」


「うん、わかった。10時ね。」


明日は付き合い出して初めての休日。

もちろん学校以外に二人で会うのも初めてだった。


「それでは、おやすみなさい。また明日。」


「うん、おやすみなさい。」


嬉しいのとドキドキで、その日は結局眠ることができなかった。

























髪をふんわり巻いた。

いつものグロスに少しピンクを混ぜた。

ハンカチは3枚準備した。

新しいブーツをおろした。

一歩足を前に出す度にカツカツと響く音と、少し上がったカカトが
急に大人になったみたいで気恥ずかしい。

風に揺れる巻き髪は我ながら上手く出来たので、ショーウィンドーや
車のガラスに自分の姿を確認しては心が弾む。

それでも、待ち合わせの場所に近づくにつれ緊張が高まった。
そんな思いに負けないように、背筋をまっすぐ伸ばして前へ進む。


約束の時間まではまだ大分あった。

それなのに、私の待ち人は既に柱の一本を陣取り、静かに背中を預けている。

軽く組まれた両腕、整った横顔、少し落とされた視線。
その全ての仕草が私の胸を射る。
どうしよう、カッコ良すぎて目が外せない。

その彼が、今、ここでこうしている理由が、自分を待つ為だと思うと
くすぐったくて仕方がない。


私の視線に気付いたのか、観月くんは顔を上げると不適に微笑みながら
近づいてきた。


「おはよう、。」


そして観月くんは、私の巻いたサイドの髪に指を通過させると
『可愛いですよ。』と囁いた。


顔色一つ変えない彼とは対象的に、私は自分の顔中が赤く染まるのが分かった。
なんか悔しい。
自分ばっかり、ドキドキして・・・。


「少し早いですが、行きましょうか。」


私の反応には特にコメントもなく、映画館に向かうことを促された。

肩を並べて歩くのは初めてじゃないのに、触れてしまいそうな
指と指が気になって、彼の話も上の空だった。

























映画館は時間が早いせいか、休日のわりには人が少なかった。
飲み物とパンフレットを買って、照明が落ちるまでは他愛のない話をした。
テニス部の話、クラスの話・・・。
いつもと同じ話題なのに、何故だかどこかぎこちないのは私のせい?

意識すればするほど、会話が続けられなくなる。
館内の灯かりが落ちた時、なんだかホッとしてしまった。

スクリーンに映像が映った。
重低音が響き渡る。

それなのに・・・。

いけない、
昨日ほとんど眠れなかったせいで、
暗くなった途端に眠気が襲う。

私はあっと言う間に眠りに落ちた。
























ん?
肩が重い・・・。

エンディングが流れ始める頃、
その温もりに目が覚めた。









心地よい温かさを感じると思ったら、
私の肩には観月くんの綺麗な寝顔があった。

意外、この人も映画館で眠ってしまうことがあるんだ。
きっと疲れてるんだろうな。

好奇心から、眠る彼の頬に触れた。
起こさないつもりだったのに、彼は私の手の冷たさに
目覚めてしまった。


「・・・・。すみません、眠ってしまったんですね。」


彼は決まり悪そうに、私の肩から顔を上げた。


「疲れてるんだよ。
 まだ部活忙しそうだもんね。」


私が言うと、観月くんは困った顔をしてため息をついた。


「違いますよ、実は・・・昨日眠れなかったんです。」


「へぇ、勉強でもしてたの?」


「今日、あなたと会うから・・・。」


「え?」


、貴女に会うのが楽しみで眠れなかったんです。」


全然観月くんらしくない発言が嬉しかった。
こんな表現おかしいかもしれないけど、
彼も普通の人なんだと気付いた。

知らなかった彼の一面。
きっとまだまだ沢山あるんだろうな。

もっと知りたい。
そしてきっと、もっと好きになる。


「私も!観月くんに会うのが楽しみで眠れなかった!!!」


「では昨日の夜は二人が同じ気持ちでいたんですね。」


そう言った彼の目は、とても優しい眼差しだった。













Fin


あとがき
ドリームなのに、ヒロインの名前が出てきません・・・・。
変換意味ないじゃんっ
しかも・・・観月が普通の人になってる(汗)
私の中では変態万歳なイメージなのですが(え?)
とにかく観月は書いてて楽しいですねvv

お付き合いありがとうございました。