「はじめは長男なんだから・・・。」





口を開けば「長男、長男」って、
僕には長男以外の配役は必要ないのですね。


















センチメンタル





















先日、祖母が他界しました。
やはりと言うか、僕は死目に会うことは出来ませんでした。


「最近元気ないね、観月くん・・・。」


昼下がりの公園。
彼女の持ってきた弁当箱が空になる頃、
それは、ためらいがちに切り出された。


「そうですか?それはの思い過ごしですよ。」


とは言ったものの、流石に僕の恋人は勘がいい。


「気のせい?そっか・・・。」


はそれ以上何も言わなかった。
ただ黙って僕の手に、そっと自分の手を重ねた。
の温もりがそうやっていつも僕の閉ざされた何かを崩してくれる。


「別に隠していたつもりもありませんが、
 貴女には嘘を言っても仕方ありませんね。」


「そんなことないよ、人には聞いてほしくない事だってあるもの。」


あえて詮索しないのは彼女の優しさ。


「それでも、話して気休めになることなら言った方がいいよ。
 私には聞くことしかできないけど。」


僕の気分を感じて、少し申し訳なさそうに笑う。
そんな女性だから、僕はついには自分の弱い部分をこぼしてしまうのです。


「祖母が亡くなったのが悲しいのではないんです。
 自分より年齢の高い人間が先に逝くのは当然のことですから。」


転校してから語ることもなかった実家の話。
僕の父親は家業にはあまり関心がなく、
自分のやりたいことをやりたいように生きるタイプの人間です。

ですから父は僕がやることにも、寛大な態度を示してくれます。
ルドルフの転入も、父からはあっさり許可をもらいました。

しかし、それを良く思ってくれないのが祖母でした。

彼女はどちらかと言えば古いタイプの人間ですから、
『しきたり』や『他人の目』を何よりも重要としていたのです。

僕が生まれたときも、女の子ばかりの観月家の長男ですから
それはそれは喜んでくれたそうです。

確かに三人の姉に比べても、
誰よりも目をかけてもらったと思います。
『特別扱い』とでも言いましょうか。
小さな頃はだからと言って何も感じませんでした。
しかし、年を追うごとに疎ましいと思えてならなかった・・・。

多分祖母は、僕を父のようにはさせたくなかったのでしょう。

近所では名家の一つとして少しは名のある家ですから、
物心ついた頃には「後を継ぐのは僕なのだ」と教え込まれたものです。

いつからでしょう。
気が付けば僕は祖母を避けるようになっていました。

将来を固定されるには、
あまりにも幼かったのだと僕は思います。

避けて、逃げて。
そうこうしているうちに、二度と顔を合わせる事が叶わなくなった。


「悲しい気持ちはありません。
 ただ、一言で言うと『後悔』でいっぱいなんですよ。」


一気にそこまで話して隣を見ると、は静かに涙を流していました。


「んふっ、貴女が泣くことないでしょう。」


僕は慰めるようにの髪を撫でました。
午後の風は優しく通り過ぎて行く。
のキレイな涙を見ると、
僕の心も静まった水面のように穏やかでした。


「観月くんは優しいね。」


彼女はそう言いましたが、、貴女の方がもっとずっと優しい。
だってきっとその涙は、泣けない僕の代わりに溢れてきたのでしょう?

自分の事しか考えられなかったこの僕が、
こうやって感傷的になれるのは貴女が僕の傍にいるから。







たまにはこう言う気分も悪くありませんね。
消極的なが、黙って寄り添ってくれるのですから・・・。







Fin





あとがき
あぁ、とうとう一人殺してしまった・・・。
ゴメンなさい。
何か、夢っぽくない夢になったなぁ。
にもかかわらず、最後まで読んでくださってありがとうございました(お辞儀)。