春の雨と言ったって、凍てつく風と共に降りてくるソレには
やがて訪れる春の気配などみじんも感じさせなかった。
a spring rain
「雨・・・?」
寮から少し歩いたところで、頭にポツリと水滴が触れた。
天気予報では雨だなんて一言も言ってなかったのに・・・。
ここから目的地までは目と鼻の先で、傘がなくても何とかなる。
だけど、決して多くはないけど大粒の滴と、気まぐれに吹く向かい風が
ストレスに感じて仕方がない。
途切れ途切れに落ちてくる滴は、の涙を思い出すから。
「やっぱり、千葉には帰らない。」
彼女にそう告げたのは、受験の頃だった。
と付き合うようになったのは六角にいた頃。
一緒にいることがとても自然で、どちらからと言うこともなく
当たり前のように恋人になった。
もちろん僕がルドルフに転校した後もその関係は続いていた。
千葉に帰るときは、実家にと言うよりの元へ。
僕にしてはメールも沢山してたし、興味深々な柳沢を押さえ込んで
電話だってした。
僕はが好きで、も僕のことが好き。
ただそれだけでいいじゃないかと思っていたのは本当の気持ち。
だけどそれは、の存在がうっとうしいとかそう言うのじゃなくて、
となら、触れていなくても繋がっていられると思っていたんだ。
あの時も、僕の前では涙一つ見せずに微笑んだ君が誇らしかった。
僕の彼女は最大の善き理解者なんだって。
でも君は本当はやっぱり普通の女の子で、
ずっと自分に嘘をついていた。
僕はどうして気付いてあげられなかったんだろう。
イッショニイタイ
ソバニイタイ
アイタイ・・・。
何度そんな言葉を呑み込んできたの?
そうさせていたのは僕自身だけれど・・・。
「高校は、地元の学校に行くよね?」
期待いっぱいのの目。
だけど僕は既に、勝手にルドルフの高等部に進級すると決めていた。
「やっぱり千葉には帰らないと思う。」
後ろめたさなど全くなかった。
はいつものように『そっか』って言って微笑むから。
ところが、いくら待ってもは何も言わない。
いつもキラキラと輝く瞳はあっという間に涙で曇って
大粒の涙が頬を伝う。
それでも必死に我慢しようとしているのか、その細い肩は小刻みに震えてた。
初めて見せた涙。
思ってもみなかった出来事に僕は慌てたけど、何も言えなかった。
沈黙が続く中、それさえも心地よいと感じてしまうのは
の事大好きで、とても信頼しているからなのに、
僕はこんな性格だからそう思っていると言うことも伝えなかった。
顔色一つ変えないで立ち尽くす僕を見て、彼女は苦笑してたっけ。
「どうせ何がいけないのか分からないんでしょ?」
そう言って僕の前から去っていった。
「寒い・・・。」
目と鼻の先・・・とは言うものの、マフラー巻いてくればよかったな。
寒さのせいで自然と足早に歩いていたから、時間前に着いてしまった。
そこで僕はガラにもなくソワソワしていた。
「淳!」
現れたのは、僕の彼女。
「やっと片付いた。」
「くすくす、お疲れ。」
そして僕が向かった場所はルドルフ女子寮。
は春から同じ高校に進学することになる。
久しぶりに見た彼女の笑顔が、やっぱり好きだな。
「寮生活って何だかワクワクするね。」
「そーかなぁ。」
「ね、今度淳の部屋行ってもいい?」
「絶対だめ。」
「何で、ケチ。」
「駄目に決まってるでしょ、あの建物は狼の溜まり場なんだから。
それに・・・。」
「それに?」
「が会いたいと思ったら、いつでも会いにくるから。」
「思っただけで?」
「うん、そう。」
「じゃぁ、いつもずっと会いたいよ。」
「ならの部屋で暮らそうかな。」
「あはははっできたらいいのにね。」
「出来るよ、あと何年かしたら。その時も一緒にいてくれる?」
は微笑みながら頷いた。
気が付けば雨も上がっていた。
遠くの空では雲の合間から日の光が見える。
きっと春も、すぐ近くまできているのかもしれない。
少しずつ変わり行く季節のように、これからは君のために僕も変わるよ。
Fin
あとがき
・・・なんて言うか、淳を忘れた(え?)
タイトルの隣に名前が出てなかったら誰だか分かんないじゃんっ
でも好きなのよ淳!!!
次ははい、もっと頑張りますので、温かい目で見守ってやってください。
お付き合いありがとうございました。