「やっぱり・・・今年も会えないんだ・・・・。」
7月7日
は空を眺めて小さくため息をついた。
「どうしました?ため息などついて。」
テニス部の部室の中、が同じマネージャーである観月はじめと
突然強くなった雨が弱まるのを待っている時の話。
「毎年どうしてか、この時期って晴れないよね。」
「んふっ、そう言う季節ですからね。」
梅雨なのだから当たり前だろうとでもいいたげに、観月はの隣に立って窓の外を確認した。
雨の日にはテニスコートが使えない。
そんな時には校舎内で筋トレをすることが多い。
この先に控えるコンソレーションのことを考えると試合形式の練習が出来ないのは痛い。
観月にとって雨の存在は忌々しいものだった。
今だって、筋トレに使う道具を取りにきただけで、ここで足止めをくらっている場合じゃない。
校舎をでた時は雨も弱く、用具を持てば両手は塞がってしまうから傘は持ってこなかった。
すぐに練習に戻れるはずだった。
しかし、雷の落ちる音が二度三度聞こえたかと思うと、次の瞬間から大きな雨音。
時間は惜しいが、女の子を連れてこんな大雨の中を行くわけにも行かない。
どうせ夕立だろう。
観月は諦めて小降りになるまで待つことを提案した。
それにしても、先ほどから雨音は強まるばかり。
その音が大きくなっていけばいくほど焦りが生じる。
少しでも強くならなくては・・・。
僕たちは勝たなくては意味がない。
無言で思いつめる観月が、その強迫観念から解放されたのがのため息だった。
「何か予定でもありましたか?」
真っ暗な空を残念そうに見つめるに問い掛ける。
いつも一生懸命仕事をこなすにも、
マネージャー以外の生活があるのだとと言うことを今まで考えもしなかった。
行動は共にして当たり前。
ずっとそうだったじゃないか。
観月は急にさっき感じた強迫観念とは違った不安を抱いた。
「違うよ、こんな大事な時期に他の予定があるわけないじゃん。」
は笑う。
観月くんに嫌われたら困るもん・・・と。
観月は何故だか少しホッとした自分を疑問に思った。
どうしてそう思ったのか腑に落ちない。
そして、胸の奥に引っかかった微量の不安要素が何なのか理解できずに、
ワザと難しい顔を作った。
「嘘じゃないよ!テニス部の事が一番大事なんだから。」
あぁそうか、そうやって『テニス部』として一纏めにされるのが気に入らないんだ。
彼女が自分以外の事にも関心を持っていると言う事実が、当たり前のことなのに無性に腹が立つ。
「今日は7月7日でしょ。」
「それが何か?」
「年に一度だけ織姫と彦星が会える日なのに・・・。」
ここ数年7日の天気は雨が続いている。
彼らはいったい何年もの間、会えない時間を過ごしているのだろうと、は本気で心配していた。
「まったく、貴女と言う人は・・・。」
もそれがおとぎ話だと言うことくらい分かっているだろう。
それでも実在しない人物を思う彼女に純粋さや温かさを感じて、観月は自然と笑みがこぼれる。
ルドルフへ来てから、仲間意識と言うものが芽生えた。
ここの連中は、何だかんだ言って自分を必要としてくれる。
観月は最近以前とは違う自分に変わりつつあることに気付いていた。
そして今、異性であるに対してだけ、もっと特別な感情があると言うことを知った。
「もしも突然僕と会うことが出来なくなったら、貴女は寂しいと思ってくれますか?」
「当たり前だよ、寂しいに決まってる。」
間髪入れずにそう答えたに、特別な感情はなかったかもしれない。
今はそれでいい。
観月は苦笑しながら言う。
「コンソレーションは全力で行きますよ。」
そして、『貴女のために・・・。』と声を落として小さく付け足した。
「え?」
今は試合のことだけに集中したい。
けれど、今度彼女がため息をつくのは、自分を想う時。
そうなるようにと天の川に願いを込めよう。
7月7日
この日、観月はじめは恋心と言うものを自覚した。
Fin
あとがき
コンソレーション・・・がこの時期なのかどうかは謎です。
そう言うことにしておいて下さい・・・・。
違ったらゴメンなさい。